科学する鯖虎

本を読んだり、手を動かしたり、テクノロジ発動したりで、ずっと眠い。

濡れそぼつ蛙

一刻、雨は止んだが、湿り気の多い夜のこと。

水溜りが点在する車道の端を自転車で走っていたら、道路の真ん中に蛙を見つけた。

すでに車に轢かれてしまったようで、内臓なのか、赤い体液を口から噴射して撒き散らした跡が見て取れる。身体は思いのほかペチャンコにはなっていなくて、胴体は浅い呼吸を繰り返すように上下し、手足は痙攣していた。

片側一方通行の道路だが、路上駐車が多かった。それらを避けるために膨らむ軌道上にちょうど彼がいたのだ。そこにいる彼が不運というほかになく、雨上がりによくみる光景として、普段ならばなんら気に留めることはなかっただろう。

僕も最初は素通りした。ただ、足をばたつかせ藻掻き苦しむ蛙の姿がしばらく頭から離れなかった。

直線道路の少し先で一台、軽トラックとすれ違ったので、今ごろは藻掻くこともできなくなっているはずだ。どの道さっきの時点でさえ救うことはできなかったが、死体が轢き続けられているのを放っておくのは慈悲がない気がしたので、とりあえず折り返すことにした。

 

近くで見ると、まだ少しだけ脚は動いていた。素手で触るのもなんか嫌だったので、近くの植樹帯で白くて鮮やかな花の葉っぱをちぎった。これも同じ命なのにな、と思うと申し訳なくなった。

その間にもう一台が通り過ぎて、今度は完全に動かなくなった。もし痛みを感じていたのならば、その苦痛が短くなるように、とどめを刺してもらってよかったのだろうか。

遅くなったことを詫びつつ、だらしなく伸びた脚を葉っぱ越しに掴んで、先ほどの花の傍まで運んでやった。しばし合掌。

 

普段から、極力蛙は触りたくない。ただ、どういう風の吹きまわしか触ってしまったので、手を洗うために近くの公衆便所に寄った。

酷いアンモニア臭が鼻をつく空間で、息を止めて手を洗う。夥しい数のコバエが小便器を覆うようにへばりついている。彼らにはこの臭いが、堪らなく嬉しいのか。

世界は、命は、循環することで繋がっているのか。僕も彼らとはお互いに、生かしているし、生かされあっている関係なのか。

湿り気の多い夜のこと。その帰りは静かな小雨に打たれた。